第3 「3 間接事実の列挙」の設問
(1)コツが必要
この書き分けは,「3 間接事実の列挙」のコツを身につければ,そんなに難しくない。3でどこまで書いてよいかの判断ができれば,残りは4で記載すればよいのだから,自ずと正しい書き分けが可能になる。
(2)証拠→間接事実→要証事実の認定のプロセス
要証事実が証拠により直接認定できないとき,間接事実を認定して,その事実に経験則を適用して推認過程を経ることで,最終的な要証事実を認定する。そして,この推認の過程においては,推認が何段階かに渡ることが,しばしばある。
例えば,証拠❶~❿から,それぞれ事実①~⑩が直接に認定できるとする。そして,事実①~③を総合すると,事実(1)が推認でき,同様に,事実④と⑤から事実(2)が,事実⑥~⑨から事実(3)が推認できるとする。さらに,事実(3)と事実⑩から事実(a)が推認できるとする。その上で,事実(1),事実(2),事実(a)は,それぞれ独立に,要証事実たる事実の存在を経験則上推認させるとして,事実(1),事実(2),事実(a)を総合して,要証事実たる事実を認定できたとする。
民裁事実認定起案では,「3 間接事実の列挙」において間接事実として記載すべきは,事実①~⑩の10個の事実である。事実(1),(2),(3),(a)ではない。
事実(1),(2),(3),(a)がどのように認定できるか,また,それらが要証事実の認定にあたって,どのような意味を持つのかについては,全部,「4 判断過程の説明」で記載する。
https://gyazo.com/0d80138ff4aac285e6ea9f91e2a220d4
2 間接事実の列挙の仕方
(1)型
「3 間接事実の列挙」の型は,以下の通りである。
code:型
第3 間接事実の列挙
1 積極方向の間接事実
(1)……である事実(認定根拠)。
この事実は,……との関係で,……という意味を有するから,積極方向に作用する。
(2)……である事実(認定根拠)。
この事実は,……との関係で,……という意味を有するから,積極方向に作用する。
(3)……である事実(認定根拠)。
この事実は,……との関係で,……という意味を有するから,積極方向に作用する。
……
2 消極方向の間接事実
(1)……である事実(認定根拠)。
この事実は,……との関係で,……という意味を有するから,消極方向に作用する。
……
(2)列挙
間接事実・認定根拠・意味づけのセットを,積極・消極に分けて,列挙する。
ア 積極方向・消極方向とは
積極,消極は,要証事実との関係で決まる。
二段の推定の場合でも,積極は,要証事実を認定するほうなので,二段の推定を覆さない方向に働く事実。
イ 列挙でよいこと
列挙でよい。グルーピングする必要はない。平板に並べる。
記載順序については,重要なものから書く方がよいが,それほど強い要請ではない。
ここでも,あまり考えすぎないこと。シンプルに簡単に。
(3)各間接事実の中身
まず間接事実を記載し,次に認定根拠を付記し,最後に意味づけを付記する。
間接事実は,「……が……であること」のような形で記載する。認定根拠は,括弧書きで付記する。意味づけは,改行した上,(特に見出しなどを付けることなく,)基本的には一文で付記する。
code:例
(1)被告の母が被告経営の雑貨店で経理をしていたこと(甲2,争いなし)。
この事実は,被告の母が被告の実印を管理していた可能性を示すので,消極方向に作用する。
3 間接事実の作り方
(1)民裁事実認定起案における間接事実
ア 特徴
(ア)証拠からの距離
証拠から近いところにある事実を記載する。
(イ)部品,材料でよい。組立て不要。
部品,材料でよい。その事実単独で意味を持たなくてもよい。別の事実を合わせて意味を持つものでかまわない。組立て前の事実を挙げる。
(ウ)要するに
あんまり複雑に考えないで,シンプルで簡単な事実をたくさん挙げること!
イ 刑裁,検察起案における間接事実との違い
(ア)刑裁,検察起案の間接事実
刑裁,検察では,間接事実とは,それ単独で推認力を持つ事実でなければならない。そこで,刑裁,検察では,証拠からそれなりに距離のある事実を間接事実として挙げることになる。つまり,証拠から直接に認められる事実をいくつか組み合わせ,そこに推認過程を入れて,意味のある間接事実を作っていくことになる。そこに刑裁,検察起案の苦労がある。
部品,材料の比喩で言えば,刑裁,検察の間接事実は,部品,材料を,組み立て,苦労して完成させる製品(or半製品)。組立て前の部品,材料は,刑裁,検察では,再間接事実,再々間接事実等ではあっても,間接事実ではない。
(イ)民裁起案の間接事実
しかし,民裁では,そうではない。証拠から簡単に認められる事実を間接事実と考えている。組立て作業前の部品が,民裁でいう間接事実である。民裁起案の間接事実は,検察起案では,再間接事実,再々間接事実,再々々間接事実などの位置づけになるはず。
苦労して組み立てたものを示すと,全然点数にならないので,骨折り損のくたびれもうけとなる。
ウ 弾劾の事実,補強の事実
積極の間接事実を弾劾する事実は,消極の間接事実。消極の間接事実を弾劾する事実は,積極の間接事実。
積極の間接事実を補強する事実は,積極の間接事実。消極の間接事実を補強する事実は,消極の間接事実。
(2)記載してはいけないもの
ア 認定できない事実
認定できる事実でなければいけない。
認定できるかどうか微妙だが大切な事実があるなら,間違いなく証拠から認定できる形に下げて,間接事実として挙げる。
イ 推認過程を経てはじめて認定できる事実
刑裁,検察の間接事実のようなもの。
推認過程は,全部「4 判断過程の説明」に回す。
推認過程がなくても書ける事実を書く。
ウ 評価を含んだ事実
事実を書く。評価は,「4 判断過程の説明」に回す。
ただし,評価か事実か,あまり神経質になる必要はない。相手側当事者がその評価について特に文句を言わないなら,多少評価っぽいことでも許されると思われる。
(3)間接事実を作る技術
間接事実レベルでは,欲張らない。どんどん下げていけばいい。
下げるとは,事実を削ること。それによって,意味づけは弱くなるけれど,別に気にしない。
ア 争いのない形まで下げる
争いのある部分と争いのない部分を分けて,争いのある部分を削ってしまう。
その分意味は少なくなるが,それでいい。
イ 証拠から即認定できる事実まで下げる
推認過程を経てはじめて認定できる部分は,削る。
こんな事実でなんか意味あるの?という気がしても,別の事実と組み合わせて意味を持つ予定があるなら,堂々と記載すればよい。
ウ 評価を取り除いた裸の事実
反対側の当事者が文句を言いそうな評価を含んでいたら,その部分を削る。
(4)チェックポイント
自分の作った間接事実が民裁事実認定起案の間接事実になっているかは,次の3つのチェックポイントで,おおよそ点検できる。(ただし,絶対ではない。)
ア 間接事実の個数
積極・消極,それぞれ10個は挙げられるはず。
それぞれ5個程度しかない場合は,設問の趣旨にあっていない可能性が高いので,要注意。
イ 認定根拠の付記
認定根拠は,基本的には,書証番号の付記で足りるはず。
自分が記載した間接事実が,書証番号の付記では認定できず,数行にわたる説明を必要とするようなものであれば,その間接事実は,設問の趣旨にあっていない可能性が高いので,要注意。
ウ 意味づけの付記
意味づけも,1~3行程度の付記で足りるはず。
10行以上の説明をしないと意味がわからない間接事実を挙げてしまっている場合は,その間接事実は,設問の趣旨にあっていない可能性が高いので,要注意。
なお,意味づけは,事細かに書く必要はない。ホントに大まかで足りる(詳しくは後述)。
4 認定根拠の付記
(1)書き方
間接事実の後に,括弧書きで,書証番号等を書けば足りる。
信用性判断は,普通は,ほとんどしない。信用性判断をしないと認定できないような事実は,間接事実として挙げてはいけない。
(2)「付記」であること
あくまでも,「付記」である。認定根拠が数行にわたるときは,間接事実のあげ方が,民裁事実認定起案の要求に沿っていない可能性が高い。
証拠を付記するだけで簡単に認定できる形で事実を切り取り,間接事実とすること。
5 意味づけの付記
(1)基本方針
「意味づけの付記」と,「4 判断過程の説明」は,書き分けが難しい。
基本方針としては,「意味づけの付記」では必要最低限にして,「4 判断過程の説明」で好きなだけ書く,というものが無難だと思う。
必要最小限としては,
code:要素
ⅰ 当該間接事実はどういうグループに属する事実なのか,
ⅱ 積極or消極である点,
の二点を書く,という感じでよいと思う。
(2)間接事実のグループ
民裁事実認定起案における間接事実は,ばらばらの部品に過ぎない。最終的な事実認定をするためには,ばらばらの部品を組み立てていく過程が,要求される。その組立て作業において,いくつかの部品をまとめたり,ひとつの部品を経験則で加工したりすることで,何らかのまとまりを持った中間的な部品を作ることになるはずである。間接事実は,その中間的な部品ごとに,まとまりを持つ。
間接事実の意味づけでは,その中間的な部品になる間接事実なんですよ,というようなことを書けばよい。
(3)「付記」であること
「付記」である。1~3行程度,1文で記載できる内容を書く。(もちろん,複数の文に渡ってもかまわないが。)